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映画鑑賞記録
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鑑賞日 2010年10月3日(日)
場 所 ユーロスペース
監 督 ウケ・ホーヘンダイク
製作年 2008年
製作国 オランダ

8月に封切られて、見たい見たいと思っていた。8日までの公開ということで滑り込みセーフ。普段見られない「内部」とか「裏側」見せます!的なものが大好きだ。今日もわくわくしながら渋谷にむかった。

いやあ、とんでもないドキュメンタリー。これが、フィクションではなく、現在進行形で起きている現実だなんて、すごすぎる!こんな映画を撮った方もすごいが、撮らせた方もすごい。

題名の通り、これは2004年に始まった「アムステルダム国立美術館」の大規模改築工事についての記録なのだが、その工事は当初2008年に完成する予定だった。ところが、2010年の今も工事は続いている。つまり工事が大幅に遅れているのだ。なぜ、工事が遅れたのか?その原因がこのドキュメンタリーのテーマの一つだ。オランダは日本では風車とチューリップの国として有名だが、美術史史上ではフランドル・ネーデルランドは北方ルネサンス中心地であり、17世紀バロック芸術についても大きな位置を占めている。ヤン・ファン・アイク、ヒエロニムス・ボス、ブリューゲル、ルーベンス、フェルメール・レンブラントなどなど、重要な画家が目白押しだ。そうした画家達を輩出した背景には、海運で栄えたオランダの富があった。アムステルダム国立美術館はそうした美の遺産を擁する世界でも屈指のものなのだ。
その改修工事となれば、国家の一大プロジェクトである。更には、理想の美術館を実現するべく館長以下スタッフは真剣に討議を重ね、満を持して計画を発表したのであるが・・・・、思ってもみなかった地元民の反対から、計画に狂いが生じ、その影響はとどまることを知らず、工事は延期による延期を重ね、計画の2008年に完成するどころか着工することさえままならぬ状態にまで発展する。

発端は、市民の重要な生活道路の形状変更という、些細なことからだった。コンペを勝ち抜いたスペイン人建築家が美術の殿堂に相応しい感動と驚きに満ちた空間の創造は、市民達の今までと変わらぬ使用感を求める声によって否定された。新しく建築される事になった研究センターは、将来の収蔵や研究の為に
必要なスペースを確保したい学芸員たちの要望を受け、高層建築物となる予定が、今までの景色を変えることに違和感を感じる市民や行政館によって、計画の三分の一にもならないような小さな建物に変更を余儀なくされた。芸術を守り、市民達により美しい状態で、自国の歴史的な美の遺産を展示したい学芸員たちの理想はことごとく否定されていく。
長く続く混乱と停滞に、希望に燃えていた館長や学芸員、建築家は疲れ切り、熱意を失いかけていく。
理想をなんとか貫こうと奮闘した館長もついには退陣を表明、妥協を重ねた計画は、とにかくも建築許可を取り付ける事ができた。しかし、実際の施工会社の入札にいたり、一社しか入札に参加しないというとんでもない事態に。勿論一社しか参加しない入札など意味がないのだ。すでに4年以上収蔵品は倉庫に眠ったまま。ついにはここまでこじれてしまうまで放置した大臣の責任問題にまで発展する。映画の最後にその後入札が無事行われ工事が着手された事が知らされて、映画は終わる。

最初に反対を表明した市民達は、いったいこの事態をどう思っているのだろう?変化を受け入れることを拒んだ為に、どれほどの時間と労力が失われたのか、自覚があるのだろうか?人間は時としてそれがどんなに理不尽で、不合理であっても、「慣れている」それだけで変えようとしない頑迷さを持っている。
そんな人間の愚かな面を突き付けられたような気がする。それでいながら、人間は100年先も輝き続けるような理想の実現を求めるものでもあるのだ。

ふと、ルーブル美術館にガラスのピラミッドが出現した時の事を思いだした。あれが完成した時、賛否両論激しい対立があった。しかし、今ではどうだろう、あの光景はすっかり受け入れられてしまっている。

美術館改修にまつわるこの騒動は、形を変えて私達の社会のいたるところで起きているのではないだろうか。変化を拒みつつ変化を求めるのが人間なのだということを、この映画ははっきりと示してくれた。


この映画のもうひとつのテーマは、美術館の裏側で行われている展示計画の策定、修復、収蔵品の買い付けなど、普段私達が見る事のない美術館の業務だ。こちらは、かつて博物館学芸員を目指して勉強をしたことがある私にとっては、非常に興味深かった。特に、展示計画について話し合う学芸員たちの真剣さに心打たれた。展示を見る側は意識することはあまりないが、作品をどのように並べるかによって、作品理解や感動の深さが変わってしまうことすらあるのだろう。作品を愛し、その作品の魅力や歴史的価値、美術史的価値を余すことなく表現するために、知恵を絞り合う学芸員たち。彼らの目に見えない努力によって、美術館は運営され、人々に感動と喜びを提供しているのだと感じた。

映画のテーマとは全然関係ないのだろうけれど、館長さんの存在がすごく気になった。彼は恐らく2メートル近くある大男、音楽と文学に造詣が深く、ヨーロッパ各国に家を持っているらしい。更に、お引っ越しの家具調度類から察するに、彼はかなりハイクラスの出身と思われた。うーん、さすがヨーロッパだねえと妙な感心をしてしまった。

学芸員や職員などいろいろな人物が登場するのだが、一番好きだなあと思ったのは、この美術館を毎朝毎晩見回る警備責任者さん。40代位の人なのだがこの美術館は自分の女房・子供と同じと言い切り毎日巡回している。彼の建物を語る言葉や表情が実にいい!実直で信念を持った男~!!っていう感じがたまらない。

工事はまだまだ続き、続編が撮影中だというから、ぜひ完成した暁にはみてみたいものだ!そしていつかは新しいアムステルダム国立美術館を訪れてみたい!!
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